【所得税の譲渡所得④】公共事業のための土地・建物売却時の税金と特例|収用等の5,000万円控除

 

道路の拡幅工事、河川の整備、学校や公共施設の建設など、全国各地で公共事業は日々行われており、それに伴う土地・建物の買取り(収用)は決して珍しいことではありません。
また、被相続人(亡くなられた方)が所有していた不動産が収用の対象となり、相続後に売却手続きを進めるケースも増えています。

こうした場面では、「どのような税金がかかるのか」「節税できる特例はあるのか」「相続税とどう関係するのか」といった疑問が次々と浮かんでくるはずです。

 

本コラムでは、このような「収用」による不動産売却に関わる税制の全体像を、相続との関連も含めて丁寧に解説します。

この記事では、
・土地・建物売却時の「収用」制度
・収用等による不動産売却時の特別控除・課税の繰延べ制度
・土地・建物売却時の特例の具体的な計算例
について実務上のポイントを押さえてご説明します。


土地・建物売却時の「収用」とはどういう制度?

 

土地・建物収用の法的根拠と仕組み

土地・建物収用とは、道路・鉄道・河川・学校・公園など公共の利益のために、国や地方公共団体などが法律に基づいて個人・法人の土地や建物を強制的に取得できる制度です。
「土地収用法」(昭和26年法律第219号)であり、同法をはじめ河川法、都市計画法、道路法など200以上の法律に収用権が認められています。

 

収用の流れは、おおむね次のとおりです。

● 事業認定の申請・取得(公共事業として認められる手続き)
● 土地調査・補償金の算定
● 事業施行者(国・地方公共団体・事業者)から所有者への「買取り等の申出」
● 交渉・合意による任意売買(協議)、または収用裁決による強制取得
● 補償金の支払いと所有権移転

多くの場合は強制的な収用裁決に至る前に、事業施行者との協議で売買契約を締結する「任意売買」の形をとります。ただし、その場合でも「収用等により土地建物を売った」として税法上の特例が適用されます。

 

土地・建物収用に伴って支払われる補償金の種類

収用では、土地・建物の売却代金だけでなく、さまざまな名目の補償金が支払われることがあります。これらは名目によって課税関係が異なるため、一括して「全部非課税」と誤解されないよう注意が必要です。

補償金の種類 主な内容 税務上の所得区分
対価補償金 土地・建物の買取り対価 譲渡所得(5,000万円控除の対象)
収益補償金 休業・営業損失に対する補償 事業所得・不動産所得など
移転補償金 引越し費用・動産移転費用など 一時所得(非課税となるケースもあり)
残地補償金 収用後の残地の価値下落補償 対価補償金と同様に扱われることが多い
工作物補償金(移転)) 塀・庭木等の移転費用 実費相当は非課税、超過分は一時所得
工作物補償金(取壊し) 建物取壊し選択時の補償 対価補償金に準じて扱われることが多い

【出典】国土交通省「公共用地の取得に伴う損失補償基準」
https://www.mlit.go.jp/common/001338606.pdf

【出典】国税庁 No.3555「収用等により取得する各種保証金の所得区分」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3555.htm

 

土地・建物収用等による不動産売却時の特例の全体像

公共事業のために土地・建物を売却した場合、通常の不動産譲渡と同様に譲渡所得税が課税されます。
しかし、土地収用法その他の法律により収用権が認められた公共事業のために資産を売却した場合には、納税者の保護と公共事業の円滑な推進を図る観点から、「租税特別措置法」に基づく2種類の特例が用意されています。

特例① 5,000万円特別控除 特例② 代替資産取得による課税繰延べ
譲渡所得(譲渡益)から最高5,000万円を控除(措法33条の4) 売却代金で代わりの資産を取得した場合に課税を将来に繰り延べ(措法33条)
代替資産の購入が不要 代替資産の購入が必要(原則2年以内)
控除しきれない部分は課税される 代替資産が高額なら課税ゼロも可能

この2つはいずれか一方しか選べません(同一年分で両方の適用は不可)。どちらが有利かは、補償金の額・取得費・将来の資産売却予定・資金繰りなどによって異なります。
以下では、特に利用されることの多い「5,000万円特別控除」を中心に詳しく解説します。

 

収用等による不動産売却時の5,000万円特別控除

 

制度の概要と計算式

収用等の5,000万円特別控除とは、公共事業のために土地・建物を売った場合に、通常の譲渡所得の計算から最高5,000万円を差し引くことができる特例です。

【課税譲渡所得の計算式】

課税譲渡所得 = 収入金額 ー(取得費 + 譲渡費用)ー 特別控除(上限5,000万円)

 

特例の適用を受けるための6つの適用要件

① 対象となる資産であること
売却した土地・建物が固定資産であること
② 代替資産取得の特例と重複適用していないこと
同じ年に、収用した資産の全部について「代替資産取得による課税繰延べ特例(措法33条)」または「交換処分等の特例(措法33条の2)」の適用を受けていないこと。
③ 買取り申出から6か月以内に売却していること(重要!)
事業施行者から最初に買取り等の申出があった日から6か月を経過した日までに売却(契約締結)していること
④ 最初の年の譲渡のみ
同一の収用に係る事業で2年以上にわたって資産を売る場合は、最初の年に売った資産についてのみ適用できます。
⑤ 最初の申出を受けた者(またはその相続人)が売却していること
事業施行者から最初に買取り等の申出を受けた者、またはその者の死亡に伴い相続・遺贈により資産を取得した相続人が売却していること。
⑥ 確定申告の要件
この特例を適用する旨を記載した確定申告書に、「収用証明書」等の一定の書類を添付して申告すること。特例は申請によって初めて適用されます。

↓譲渡所得については、こちらのコラムで詳しく紹介しています。
【所得税の譲渡所得①】相続不動産を売却すると確定申告が必要?譲渡所得の基本的な計算方法を解説!

【所得税の譲渡所得②】自宅を売却した時の譲渡所得特例とは?実家(空き家)を売却した場合の税金は?

 

補償金の種類と特別控除の対象範囲

5,000万円特別控除の対象となるのは、あくまで「対価補償金」として課税される収入に限られます。前掲の補償金一覧のとおり、移転補償金や収益補償金は別途の所得として扱われ、この特別控除は適用されません。補償明細書を精査し、所得区分を正確に確認することが重要です。
また、残地補償金については、収用される土地と残地をまとめて一団の土地として評価し直した上で、対価補償金に含めて処理されることが多いです。

 

他の特別控除との関係

収用等の5,000万円控除と、被相続人の居住用財産(空き家)に係る3,000万円特別控除は、同一資産には重複適用できません。同じく、居住用財産を売ったときの3,000万円控除(マイホーム特例)も同一資産には重複適用できません。どちらを適用するかは、節税効果を比較して判断する必要があります。
また、同じ年に異なる資産の譲渡に対し複数の特別控除を利用する場合の特別控除の枠は、合計で5,000万円が上限となります。
適用可否については要件が複雑ですので、専門家に相談することをお勧めします。

【出典】国税庁 No.3552 収用等により土地建物を売ったときの特例 措法33条の4
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3552.htm

 

土地・建物売却時の特例の具体的な計算例

 

ケース①:5,000万円特別控除を適用する場合

Aさんは、道路拡幅工事のために自宅の土地(一部)を市に売却しました。以下の条件で税額を計算してみましょう。

項目 金額
収用対価(土地の補償金) 8,000万円
取得費(概算:売却価格の5%) 400万円
譲渡費用 100万円
特別控除 5,000万円(上限)
課税譲渡所得 8,000万円 ー 400万円 ー 100万円 ー 5,000万円 = 2,500万円
税率(長期譲渡所得の場合) 所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315% ≒ 20.315%
概算税額 約508万円

※所有期間が売却年の1月1日時点で5年超の場合は「長期譲渡所得」として税率20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)が適用されます。
※取得費が不明な場合は売却価格の5%を概算取得費として計上できます(所得税法施行令第169条)。

 

ケース②:特別控除適用後に課税がゼロになるケース

Bさんの収用補償金が5,500万円、取得費が800万円、譲渡費用が150万円の場合

課税譲渡所得 = 5,500万円 ー 800万円 ー 150万円 ー 4,550万円(譲渡益分)= 0円

この場合、特別控除は「譲渡益が上限」となるため、5,000万円ではなく「4,550万円」が控除され、課税所得はゼロになります。特別控除額は最大5,000万円ですが、実際の譲渡益を上限とする点に注意が必要です。

 

代替資産取得による課税の繰延べ(措法33条)

条件はありますが、その年の譲渡所得に対する課税を将来に繰り延べることができる制度があります。

 

制度の概要

収用等の補償金を使って、収用された資産と同種または一定の資産(代替資産)を取得した場合、その年の譲渡所得に対する課税を将来に繰り延べることができます。
代替資産の購入金額が収用補償金を上回る場合は、その年の課税はゼロになります。一方、補償金より低い金額の代替資産を取得した場合は、その差額分のみが課税対象となります。

 

代替資産の取得期限

代替資産は原則として、
①収用等のあった年及び
②収用等のあった年の前年(収用等が明らかとなった日以後に限る)に取得したもの
③収用等のあった日以後2年を経過した日までに取得する予定のものに限られます。

 

相続した不動産が収用対象になったとき

 

相続人も特例を使える

最初に買取り等の申出を受けた土地所有者が亡くなり、相続人がその土地を相続した場合でも、収用等の5,000万円特別控除や代替資産取得による課税の繰延べを適用することができます(措法第33条の4の4、通達33-45)。これは、被相続人が受けるはずだった特例を相続人が引き継ぐ形で適用できることを明確に規定したものです。
相続した不動産が収用対象となるケースは、少子高齢化・空き家問題が深刻化している昨今、決して珍しくありません。親から相続した実家や農地が、道路拡幅や再開発事業の対象となることも増えています。

 

相続税との二重課税を防ぐ「取得費加算の特例」

相続によって取得した不動産を売却すると、相続税と譲渡所得税の両方がかかる場合があります。この二重課税を緩和するために設けられているのが、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」(措法39条)、いわゆる「取得費加算の特例」です。原則として収用等の5,000万円特別控除や代替資産取得による課税の繰延べとの併用が可能です。

↓相続税の取得税加算については、こちらのコラムで詳しく紹介しています。
【所得税の譲渡所得③】相続税の取得税加算とは?市街地価格指数が使えるケースも

 

土地・建物の収用による特例についてよくある質問

Q1. 補償金は全額非課税ではないのですか?

A. 一律に非課税というわけではありません。土地・建物の対価(対価補償金)は原則として譲渡所得の対象となり、5,000万円特別控除が適用できる場合があります。移転補償金や収益補償金などは内容に応じて一時所得・事業所得等に区分され、課税関係がそれぞれ異なります。補償明細書の内訳で税区分を確認することが重要です。

Q2. 収用の5,000万円控除と居住用3,000万円控除は同時に使えますか?

A. 同一資産に対して両方を適用することはできません。同じ年に他の特別控除を利用している場合も含め、合計で5,000万円が上限となります。どちらの特例を適用するかは、個別の状況を比較して判断してください。

Q3. 売買契約は6か月以内に締結したが、引渡しは7か月後になります。5,000万円控除は使えますか?

A. 買取り等の申出から6か月以内に売買契約を締結していれば、引渡しが6か月経過後であっても特例の適用が認められると解されています。この制度の趣旨が「公共事業用地の早期円滑な取得」を促進する点にあるため、契約日を基準に判断されます。ただし個別事情によって異なる場合もあるため、事前に税務署または税理士へご確認ください。

Q4. 取得費加算の特例と収用の5,000万円控除は同時に使えますか?

A. 原則として同時に使えます。取得費加算によって計算上の取得費が増え、課税譲渡所得が少なくなった上で、さらに5,000万円の特別控除を適用することが可能です。ただし、いずれの特例も適用要件がありますので、税理士に相談の上でシミュレーションを行うことをお勧めします。

 

まとめ(税理士・笘原拓人より)

本コラムでは、土地・建物等の収用による不動産売却に関わる主要な税制上の特例を解説しました。

収用に関わる税務は、補償金の種類・金額・相続の有無・他の特例との関係など、複合的な判断が求められる複雑な分野です。一つの判断ミスが数百万円単位の税負担の差につながることも珍しくありません。

そして、いずれの特例も確定申告が必須であり、適用漏れの取り戻しができない場合があるため、早めの準備と専門家への相談が重要となります。 相続した不動産の売却を検討されている方は、できるだけ早い段階で当事務所にご相談ください。

 

【関連ページ】

↓相続の解決事例をこちらでご紹介しています!
相続解決事例

 

↓当所について詳しく知りたい方はこちら!
相続対策は専門性の高い税理士にお任せください

相続税対策のことがよく分かる相続税対策マニュアル小冊子を無料でプレゼントしています!お申し込みはこちらからどうぞ 相続税対策のことがよく分かる相続税対策マニュアル小冊子を無料でプレゼントしています!お申し込みはこちらからどうぞ

無料相談・診断OK!
どんどん他所と比較をしてください。
売り込みはいたしません!

出張相談可能[予約制]

平日時間外・祝日対応
通常受付時間9:00-20:00

金 山 駅
徒歩3分

名古屋市中区正木4丁目8番7号
れんが橋ビル7F

初回相談・着手金無 料

このサイトを広める