【所得税の譲渡所得③】相続税の取得税加算とは?市街地価格指数が使えるケースも
投稿日:2026.04.12

親から不動産を相続し、相続税を支払ったあとにその不動産を売却すると、今度は「譲渡所得税」も課税されてしまいます。相続税と譲渡所得税という「二重の税負担」に悩む方は少なくありません。
そのような場面でぜひ知っておきたいのが、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」です。
この特例を活用すると、支払済みの相続税の一部を譲渡所得の「取得費」に上乗せすることができます。
「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」は、所得税・住民税の大幅な節税につながります。
さらに、相続した不動産の取得費(購入価格)が不明な場合には、一般財団法人日本不動産研究所が公表している「市街地価格指数」を使って取得費を推計する方法もあります。ただし、この方法には適用できるケースが限られており、安易に使うと税務署に否認されるリスクもあります。
この記事では、税理士の立場から、
・相続税の取得費加算の特例の概要・要件・計算方法・注意点
・市街地価格指数を活用できるケース
・市街地価格指数を活用する際に注意すべきポイント
について分かりやすく解説します。
目次
相続税の「取得費加算の特例」とは何か
【制度の背景:相続税と譲渡所得税の「二重課税」問題】
相続によって土地や建物などの財産を取得した場合、その財産には相続税が課税されます。そして相続した財産を将来売却すると、売却益(譲渡益)に対して今度は譲渡所得税・住民税が課税されます。
つまり、同じ財産に対して「相続時」と「売却時」の2回にわたって税金が発生する構造です。これを放置すると、納税のたびに手元に残る資産が大きく目減りしてしまいます。
このような二重課税の問題を緩和するために国が設けたのが、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」です。通称「取得費加算の特例」と呼ばれ、国税庁のタックスアンサー「No.3267」で詳しく説明されています。
【出典】国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
【特例の仕組みと根拠法令】
この特例は、相続や遺贈によって取得した土地・建物・株式などを一定期間内に譲渡した場合に、支払った相続税の一部を譲渡所得計算上の「取得費」に加算できる制度です(租税特別措置法第39条)。
取得費が増えると、「譲渡収入金額-取得費-譲渡費用」で計算される譲渡所得が圧縮され、その結果として所得税・住民税の税額を減らすことができます。
【ポイント】
● あくまで「所得税」(および住民税)の節税制度
● 相続税そのものを減らすものではない
取得費加算の特例の適用要件
取得費加算の特例を受けるためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ①財産の取得方法 | 相続または遺贈によって財産を取得した者であること。生前贈与で受け取った財産のうち、相続時精算課税や3年(7年)内贈与の生前贈与加算の規定によって相続税の対象となった贈与については適用可能です。 |
| ②相続税の課税 | その財産を取得した人に相続税が課税されていること(相続税額がゼロの場合は適用不可)。配偶者控除等の適用で相続税がゼロになったケースも対象外です。 |
| ③譲渡の時期 | 財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(「3年10か月以内」)に譲渡していること。 |
【「3年10か月以内」の期限に注意】
・相続税の申告期限は原則として「相続開始を知った日の翌日から10か月以内」です。
・そこからさらに3年が加わるため、合計で相続開始から3年10か月が売却の期限になります。
・不動産の売却には時間がかかることも多いため、早めに動くことが重要です。
【計算のポイント】
・分母の「課税価格」は債務控除前の金額を使います。
・加算できるのは「自分が支払った相続税全額」ではなく、売却した財産に対応する割合分のみです。
・複数の財産を売却する場合は、財産ごとに計算します。
【前提条件を仮定した具体的な計算例】
◾️ 相続した土地(相続税評価額:4,000万円)を5,000万円で売却
◾️ 相続税額:600万円
◾️ 相続税の課税価格(債務控除前):8,000万円
◾️ 取得費(被相続人の取得費を引継):500万円
◾️ 譲渡費用:200万円
①特例を使わない場合の譲渡益
5,000万円 ー(500万円+200万円)= 4,300万円
②取得費加算額
600万円 × 4,000万円 ÷ 8,000万円 = 300万円
③特例を使った場合の課税対象所得
4,300万円 ー 300万円 = 4,000万円
④節税効果(長期譲渡所得税率20.315%の場合)
300万円 × 20.315% ≒ 約61万円の節税
このように、取得費加算の特例を活用することで相当額の税負担を軽減できます。売却価格や相続税額の大きさによっては、数百万円単位の節税につながるケースも珍しくありません。
↓譲渡所得については、こちらのコラムで詳しく紹介しています。
【譲渡所得①】相続不動産を売却すると確定申告が必要?譲渡所得の基本的な計算方法を解説!
相続税の取得費加算の特例適用時の注意点・落とし穴
① 相続税が0円の場合は使えない
配偶者の税額軽減などを利用して相続税の納付額がゼロになった場合、この特例は適用できません。そもそも「加算する相続税額」が存在しないためです。配偶者が相続した財産を売却する際によくある誤解ですので注意しましょう。
② 所有期間は「被相続人の取得時」から引き継ぐ
相続で取得した不動産については、所有期間を被相続人が取得した時点から通算します。したがって、相続後2〜3年で売却した場合でも、被相続人が長年保有していた場合は長期譲渡所得(所有5年超)の税率20.315%が適用されます。
③ 相続税の申告前に売却した場合の取り扱い
相続税の申告期限(10か月)が来る前に不動産を売却した場合は、一旦取得費加算の特例を適用しない計算で所得税を申告・納税し、その後相続税の申告が完了した段階で更正の請求を行うことで特例を適用できます。
④ その財産の譲渡益が相続税の取得費加算の限度額
複数の相続財産を売却した際には注意が必要です。
※特例の適用は「申告してはじめて受けられます。
取得費加算の特例は、確定申告を行ってはじめて適用されます。
また、特例を適用した結果、納税額がゼロになる場合でも申告が必要です。
相続税の取得税加算についてよくある質問
Q1. 相続税の取得費加算の特例は土地だけでなく株式にも使えますか?
A. はい、使えます。相続や遺贈で取得した株式・投資信託・その他の有価証券を3年10か月以内に売却した場合にも適用可能です。ただし、事業所得・雑所得として区分される株式等の譲渡には適用できません。
Q2. 相続後3年10か月を過ぎてしまいました。特例は使えませんか?
A. 残念ながら、期限を過ぎた場合は取得費加算の特例は適用できません。ただし、取得費の実額把握や市街地価格指数による推計、他の特例の活用可否を税理士に確認することをお勧めします。
Q3. 複数の相続財産を売却した場合、まとめて計算できますか?
A. いいえ、取得費に加算する相続税額は譲渡した財産ごとに個別に計算します。たとえば土地Aと土地Bを別々に売却した場合、それぞれについて計算式を適用します。
市街地価格指数を使って取得費を推計する方法

市街地価格指数とは?
市街地価格指数とは、一般財団法人日本不動産研究所が公表している、全国主要都市の宅地価格の推移を指数化したものです。
● 全国主要198都市の宅地を対象に調査
● 日本不動産研究所の不動産鑑定士が年に2回(3月・9月)価格調査を実施
● 昭和11年9月から旧日本勧業銀行が調査を開始し、昭和34年3月から日本不動産研究所が承継
● 「全国」「六大都市」「六大都市を除く」など複数区分があり、昭和60年3月からは地方別・三大都市圏別の指数も公表
【出典】一般財団法人日本不動産研究所【市街地価格指数・全国木造建築費指数】
https://www.reinet.or.jp/
※最新データはウェブサイトで公開。過去データは冊子として販売されています。
市街地価格指数による取得費の計算式
【市街地価格指数による土地の取得費推計】
土地の取得費 ≒ 土地の譲渡価格 ×(取得時の市街地価格指数 ÷ 譲渡時の市街地価格指数)
概算取得費との比較(具体例)
【具体例】令和8年に1億円で売却した不動産(昭和47年取得)
◾️ 概算取得費(売却価格の5%)の場合
・取得費:1億円 × 5% = 500万円
・課税対象所得:1億円 ー 500万円 = 9,500万円
・長期譲渡所得税(20%):約1,900万円
◾️ 市街地価格指数を使った場合(昭和47年指数51.8、令和8年指数138.7と仮定)
・取得費:1億円 × (51.8 ÷ 138.7)≒ 3,733万円
・課税対象所得:1億円 ー 3,733万円 ≒ 6,267万円
・長期譲渡所得税(20%):約1,253万円
→ 差額:約647万円の節税効果
市街地価格指数が使えるケース・使えないケース
市街地価格指数による取得費の推計は法令に明記されているものではなく、国税不服審判所の裁決事例(平成12年11月16日裁決)で初めて合理的な方法として認められたものです。そのため、適用できる場面は限定的です。
【市街地価格指数が認められやすい条件】
➡︎購入時の売買契約書・通帳記録・ローン契約書などが一切存在しないこと
➡︎対象土地の取得時の地目が宅地であること(農地・山林等は対象外)
➡︎その土地が所在する地域が市街地価格指数の調査対象地域に含まれること
➡︎対象地の公示価格・路線価の推移が市街地価格指数の推移と同等の水準であること
【市街地価格指数が認められにくい・使えないケース】
➡︎売買契約書など取得費を証明できる書類が一部でも存在する場合
➡︎対象地の公示価格・路線価の推移と市街地価格指数の推移が大きくかけ離れている場合
➡︎取得時の地目が宅地以外(農地転用後など)の場合
➡︎市街地価格指数の調査対象外の地域に所在する土地
※安易な利用は税務調査で否認されるリスクあり
インターネット上には市街地価格指数を使った計算方法が広く紹介されていますが、個別の土地の価格変動と必ずしも一致するものではなく、対象地の実態と指数の乖離が大きい場合は否認されます。必ず税理士に相談のうえで判断してください。
過去の裁決事例まとめ・注意点
過去の裁決事例から
【認容】平成12年11月16日裁決(裁決事例集No.60 208頁)
原処分庁が市街地価格指数(六大都市を除く住宅地)を用いて取得費を算定した手法について、審判所が「市場価格を反映した近似値の取得費が計算でき、合理的」と判断。市街地価格指数が認められた基礎的事例。
【棄却】平成26年3月4日裁決(東裁)
請求人が採用した六大都市市街地価格指数は、対象土地の取得時の市場価値を適切に反映するものではないとして主張を棄却。
【棄却】平成30年7月31日裁決(仙裁)
取得費の推計に市街地価格指数を用いることへの合理性が否定された。
【出典】国税不服審判所【公表裁決事例】
https://www.kfs.go.jp/service/JP/index.html
市街地価格で取得費を計算する場合の注意点・落とし穴
取得費不明のまま概算取得費で申告すると、市街地価格指数への更正請求は不可となります。
一度、概算取得費を使って確定申告を行った場合、その後に市街地価格指数を用いた取得費に変更するための更正の請求は認められません。申告前に判断することが必要です。
まとめ(税理士・笘原拓人より)
上記に述べたとおり、取得費加算の特例や市街地価格指数を適切に活用することで、相続財産の売却にかかる税負担を大幅に軽減できる可能性があります。
一方で、計算方法の選択を誤ったり期限を見逃したりすると、本来受けられるはずの節税メリットを逃すだけでなく、税務調査で修正申告を求められるリスクもあります。
相続した不動産の売却を検討されている方は、できるだけ早い段階で当事務所にご相談ください。
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