相続した上場株式の相続税評価を解説|4つの株価と計算例、調べ方、申告書の書き方まで
投稿日:2026.09.10

相続財産の中に上場株式が含まれている場合、「今の株価をそのまま使えばいいのか」「いつの時点の株価を使うのか」と迷う方は少なくありません。
結論からお伝えすると、上場株式の相続税評価額は「課税時期(被相続人が亡くなった日)の終値」だけで決まるわけではなく、直近3か月の月平均株価も比較したうえで、最も低い価格を採用してよいというルールがあります。
これは国税庁の財産評価基本通達169で定められた公式なルールであり、株式市場特有の値動きの大きさを考慮した仕組みです。
本コラムでは、相続税専門の当事務所が、上場株式の相続税評価の原則と具体的な計算例、株価の調べ方、相続税申告書への記載方法、さらに見落としやすい注意点までを、国税庁の資料を引用しながら網羅的に解説します。
上場株式を相続された方、これから相続税申告を控えている方はぜひ最後までご覧ください。
目次
上場株式の相続税評価の基本ルール
評価額の計算式
上場株式の相続税評価額は、次の式で計算します。
◾️ 相続税評価額 = 1株あたりの株価 × 相続した株式数
問題となるのは「1株あたりの株価」をどの時点のものにするかです。
上場株式は日々の経済情勢や企業業績によって株価が大きく変動するため、亡くなった日(課税時期)の株価だけで評価すると、たまたま急騰・急落していた日にあたってしまい、実態とかけ離れた評価になるおそれがあります。
そこで国税庁は、次の4つの株価のうち最も低い金額を採用してよいというルールを定めています。
2. 課税時期の属する月の毎日の終値の月平均額
3. 課税時期の属する月の前月の毎日の終値の月平均額
4. 課税時期の属する月の前々月の毎日の終値の月平均額
このルールは国税庁の財産評価基本通達169「上場株式の評価」に規定されており、国税庁のタックスアンサー(No.4632 上場株式の評価)でも同様の内容が案内されています。相続税評価は納税者に有利な「最も低い価格」を選べる数少ない評価方法のひとつであり、正しく理解しておくことで適正な節税につながります。
【出典】国税庁「No.4632 上場株式の評価」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4632.htm
銘柄ごとにバラバラの時点を採用してよい
被相続人が複数の銘柄の上場株式を保有していた場合、銘柄ごとに異なる時点(1〜4)を採用してもかまいません。すべての銘柄を同じ基準日でそろえる必要はなく、銘柄Aは相続開始日の終値、銘柄Bは前々月の月平均額、というように、それぞれ最も低くなる時点を個別に選んで評価額を算定できます。
この点は見落とされがちですが、相続税額に直接影響するため必ず確認しましょう。
フローチャートで確認する評価の流れ
ここまでの内容を、休場日や権利落ちといった例外パターンも含めて1つの流れに整理すると、以下のようになります。全体像をつかんでから各セクションを読むと理解がスムーズです。

※課税時期の確認→休場日・権利落ちの調整→4つの株価の比較→端数処理→評価額算定、という流れを図解しています。
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【はじめての方へ】相続手続きは何から始める?やることリストと流れをやさしく解説
具体例でわかる評価額の計算方法
実際の数字を使って計算の流れを確認してみましょう。
【前提条件】
被相続人が亡くなったのは4月5日、保有していた株式数は300株とします。相続税評価として認められる4つの時点の株価が以下の通りだったとします。
| 基準となる株価 | 金額 |
|---|---|
| ①相続開始日(4月5日)の終値 | 2,845.60円 |
| ②相続開始月(4月)の毎日の終値の月平均額 | 2,910.33円 |
| ③前月(3月)の毎日の終値の月平均額 | 2,768.47円 |
| ④前々月(2月)の毎日の終値の月平均額 | 2,912.90円 |
この4つのうち最も低いのは、③の2,768.47円です。相続税評価額の計算では、円未満の端数(小数点以下)は切り捨てて整数部分のみを使用します。
・採用単価:2,768.47円 → 2,768円(端数切り捨て)
・評価額:2,768円 × 300株 = 830,400円
このように、4つの基準日のうちどれが最安値になるかはケースバイケースです。
相続開始日の株価だけを見て「これが評価額だ」と思い込まず、必ず前月・前々月の月平均額まで確認するようにしましょう。保有銘柄数が多いほど、この確認作業を怠ると評価額を過大に計上してしまうリスクが高まります。
株価・月平均額の調べ方

証券会社の残高証明書で確認する
株式を預けている証券会社に相続の発生を伝え、相続開始日時点の残高証明書の発行を依頼しましょう。残高証明書には相続開始日の終値が記載されているのが一般的です。
証券会社によっては、基準となる3か月分の月平均終値まで参考資料として添付してくれるケースもあるため、依頼の際に確認するとよいでしょう。
残高証明書の請求には、一般的に次の書類が必要です。
● 被相続人の死亡の事実がわかる書類(戸籍謄本、住民票の除票の写しなど)
● 請求者と被相続人の関係がわかる書類(戸籍謄本、法定相続情報一覧図など)
● 請求者の本人確認書類(運転免許証・パスポートなどの写し)
月間の終値平均は日本取引所グループ(JPX)の月間相場表で確認
課税時期が属する月・前月・前々月の月平均終値は、日本取引所グループ(JPX)が公表している「月間相場表(株式相場表)」で調べることができます。銘柄コードごとに終値の月平均額が掲載されているため、証券会社からの資料が手元にない場合でも自分で確認可能です。
【出典】日本取引所グループ「月間相場表」
https://www.jpx.co.jp/
相続開始日の終値はYahoo!ファイナンスなどの株価情報サイトで確認
相続開始日(被相続人が亡くなった日)1日分の終値は、Yahoo!ファイナンスなどの株価情報サイトで銘柄名・証券コードを入力し、日付を指定して確認するのが簡便です。
ただし相続税申告の根拠資料としては、証券会社発行の残高証明書やJPXの公表資料を優先して使うことをおすすめします。
相続税申告書への記載方法
国税庁のホームページから「上場株式の評価明細書」の様式をダウンロードし、次の手順で記入します。
1. 銘柄名、取引所名などの基本情報を記入する
2. 相続税評価として認められる4つの株価をそれぞれ記入する
(①課税時期の終値、②当月平均、③前月平均、④前々月平均)
3. 4つの株価のうち最も低いものを「評価額」欄に転記する
この明細書を添付しておくことで、どの時点の株価を採用したかを税務署に対して明確に示すことができ、後日の確認や税務調査の際にもスムーズに説明できます。
【出典】国税庁「B2-3 上場株式の評価明細書」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hyoka/annai/1470-02.htm
【第11表への記載のポイント】
第11表は「相続税がかかる財産の明細書」であり、現金や不動産など他の相続財産と合わせて記載する書類です。上場株式については、以下のように記入します。
・種類:有価証券
・細目:特定同族会社以外の株式
・利用区分、銘柄等:株式の銘柄名
・所在場所等:証券会社名・支店名
・数量・単価・価額:保有株式数、採用単価、評価額
細目について、国税庁の記載例では「上記以外の株式」という表記が用いられていますが、これは特定同族株式を保有している人向けの記載例です。特定同族株式を保有していない一般的なケースでは「特定同族会社以外の株式」と記載する方が趣旨に沿っており、税務署への説明もしやすくなります。
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見落としがちな注意点
上場株式を相続財産に計上する際、株価の評価そのもの以外にも見落としやすいポイントがあります。申告漏れは加算税・延滞税の対象になり得るため、以下の点も必ず確認しましょう。
配当期待権・未収配当金の計上を忘れない
被相続人が亡くなったタイミングによっては、「配当期待権」または「未収配当金」が別途相続財産として発生します。
配当期待権とは、保有株式に対する配当を受け取る権利のことです。次の3つの要件をすべて満たす場合に発生します。
● 被相続人が保有する株式に配当がある
● 「配当基準日の翌日〜配当確定日」の間に被相続人が死亡している
● 被相続人の死亡後に配当を受け取れる状態にある
一方、未収配当金は、配当確定日の翌日以降に被相続人が死亡し、まだ受け取っていない配当金がある場合に発生します。こちらも相続財産として申告が必要です。
それぞれの評価額は、税引き後の受取配当金相当額で計算します。上場株式の配当金にかかる源泉徴収税率は20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)であるため、計算式は次のとおりです。
◾️ 評価額 = 予想配当金額 ×(1-20.315%)× 保有株式数
【出典】国税庁「No.1330 配当金を受け取ったとき」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4632.htm
端株(単元未満株)の見落としに注意
被相続人が最低売買単位(1単元)に満たない「端株」を保有していた場合、証券会社の残高証明書に反映されないことがあります。端株の有無は、以下の方法で確認できます。
【配当金計算書を確認する】
所得税額・住民税額の欄が「***」であれば端株なし、具体的な数字が入っていれば端株がある可能性があります。所有株数の欄が1単元で割り切れない数であれば端株ありと判断できます。
【証券保管振替機構(ほふり)に問い合わせる】
故人名義の証券口座・特別口座の有無を照会できます。開示請求は郵送のみで、相続人請求分の手数料は1件あたり6,050円(税込)です。
【株主名簿管理人(信託銀行等)に問い合わせる】
発行会社のホームページ等で株主名簿管理人を確認し、直接問い合わせることで特別口座や端株の有無がわかります。
【上場株式の相続税申告でよくある誤り】
上場株式の評価はルール自体はシンプルですが、実務では次のような誤りが少なくありません。よくありがちな誤りを3つご紹介します。
申告後に税務調査で指摘を受けると、加算税・延滞税が発生するおそれもあるため、申告前に確認しておきましょう。
【誤り① 相続開始日の終値だけで評価してしまう】
最も多いのが、証券会社の残高証明書に記載された「相続開始日の終値」をそのまま評価額として使ってしまうケースです。前月・前々月の月平均額まで確認すれば、より低い評価額を採用できる可能性があります。証券会社が3か月分の月平均額を出してくれない場合は、日本取引所グループの月間相場表を自分で確認する必要があります。
【誤り② 相配当期待権・未収配当金の計上漏れ】
被相続人の死亡時期によっては、株式そのものの評価額とは別に、配当期待権や未収配当金を相続財産として申告する必要があります。「亡くなった日が配当基準日の直後だった」というケースは要注意です。
【誤り③ 権利落ち・配当落ちの調整を忘れる】
相続開始日が権利落ち日又は配当落ち日から基準日までの間にある場合、通常の終値・月平均額をそのまま使うと株価を実態より低く(または高く)評価してしまいます。財産評価基本通達170及び172に基づく調整計算が必要かどうか、必ず確認しましょう。
こんなときはどう評価する?例外パターン

原則的な評価方法だけでは対応しきれない、実務上よく発生する例外パターンを整理します。
相続開始日が土曜・日曜・祝日だった場合
証券取引所が休場の日に相続が発生した場合、その日の終値は存在しません。この場合は「相続開始日に最も近い日の最終価格」を採用します。たとえば土曜日に亡くなった場合は前営業日である金曜日の終値、日曜日に亡くなった場合は翌営業日である月曜日の終値を用いるのが一般的な考え方です。
3連休の中日など、最も近い営業日の最終価格が前後で2日分存在する場合は、その2日分の終値の平均額を採用します。
新株割当てや配当支払いの基準日をまたぐ場合(権利落ち・配当落ち)
株式の受け渡しは約定から3営業日後に行われるため、配当や新株割当てを受ける権利を得るには基準日の3営業日前までに株式を保有している必要があります。この権利が得られなくなる日を「権利落ち日」(配当に関するものは「配当落ち」)と呼び、権利がなくなる分だけ株価が一時的に下落する傾向があります。
相続開始日(課税時期)が権利落ち日から基準日までの間にある場合、株価の一時的な下落をそのまま評価に反映すると実態と乖離するため、国税庁の財産評価基本通達170「上場株式についての最終価格の特例-課税時期が権利落等の日から株式の割当て等の基準日までの間にある場合」及び172「上場株式についての最終価格の月平均額の特例」により、次のような調整計算が定められています。
・課税時期の終値:権利落ち日の前日の終値を、課税時期の終値とみなす。
・課税時期が属する月の終値平均額:権利落ちの場合は月初〜権利落ち日の前日までの平均額、配当落ちの場合は月初〜月末までの平均額など、課税時期と基準日・権利落ち日の前後関係に応じて計算方法が細かく分かれます。
このパターンは計算が複雑になりやすいため、該当しそうな場合は税理士へ相談することをおすすめします。
【出典】国税庁「第1節 株式及び出資」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/01.htm
複数の証券取引所に上場されている株式の場合
日本国内には複数の金融商品取引所があり、企業によっては東京証券取引所と地方取引所など複数の市場に重複して上場しているケースがあります。この場合、どちらの取引所の価格を採用してもよいとされています。評価額をできるだけ低く抑えたい場合は、両方の取引所の株価を比較して有利な方を選びましょう。
亡くなる直前に売却したが、受け渡し前だった場合
株式の売買は約定日から受け渡し日まで3営業日を要します。そのため、被相続人が亡くなる直前に株式を売却していても、相続開始日時点ではまだ株式の引き渡しが完了しておらず、残高証明書に当該株式が残ったままになっていることがあります。
このようなケースでは、株式そのものを評価するのではなく、「売買代金請求権」として売却代金の総額を未収入金の形で相続財産に計上します。なお、証券会社に支払うべき未払いの手数料は被相続人の債務として、債務控除の対象になります。
非上場株式との評価方法の違い
上場株式は市場価格をもとに比較的シンプルに評価できますが、オーナー企業など証券取引所に上場していない非上場株式(取引相場のない株式)は評価方法が大きく異なります。
非上場株式は、相続人が発行会社の経営を支配できる立場(同族株主等)かどうかによって評価方式が変わります。
【類似業種比準方式】
業種が類似する上場企業の株価・配当・利益・純資産などを参考に評価する方法
【純資産価額方式】
相続税評価額で算定した会社の純資産価額から、評価差額に対する法人税相当額を控除して評価する方法
【配当還元方式】
経営への支配力を持たない少数株主が取得した株式について、受け取る配当金額をもとに評価する方式。一般的に前2者より評価額が低くなる傾向があります
会社を支配する同族株主等は原則として類似業種比準方式・純資産価額方式(会社規模により併用)で評価し、経営に関与しない少数株主は特例的に配当還元方式で評価するのが基本的な考え方です(国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」参照)。
非上場株式の評価は専門性が高く、会社規模の判定や複数方式の併用計算など実務上の論点が多いため、該当する相続財産がある場合は早めに専門家へ相談することを強くおすすめします。
上場株式の相続でよくある質問
Q1. 上場株式の相続税評価は誰でも自分で計算できますか?
A. 原則的なケース(休場日や権利落ちが絡まない場合)であれば、証券会社の残高証明書とJPXの月間相場表を確認するだけで、ご自身での計算も十分可能です。ただし権利落ちが絡む場合や、複数銘柄・複数取引所にまたがる場合は計算が複雑になるため、税理士へのご相談をおすすめします。
Q2. 株価が課税時期の終値より上がっていた場合、高い方の株価を使わなければなりませんか?
A. いいえ。4つの株価のうちどれが一番高いかは関係なく、常に最も低い価格を採用できます。これは納税者に不利益にならないよう配慮された国税庁の取り扱いです。
Q3. NISA口座で保有していた上場株式も同じ方法で評価しますか?
A. はい。NISA口座内の上場株式であっても、相続税評価の考え方は特定口座・一般口座と同様に、財産評価基本通達169に基づく4つの株価のうち最も低いものを採用します(NISAの非課税措置は相続税評価とは別の制度です)。
Q4. 端株や単元未満株も相続税の対象になりますか?
A. なります。単元未満株であっても財産的価値がある以上、相続財産として申告が必要です。証券会社の残高証明書に記載が漏れることがあるため、配当金計算書などで別途確認しましょう。
Q5. 相続開始日に取引が成立していなかった(値がつかなかった)場合はどうしますか?
A. その日に終値がない場合も、休場日と同様に「相続開始日に最も近い日の最終価格」を採用します。
まとめ|迷ったら専門家への相談を
上場株式の相続税評価は、次の4つの株価のうち最も低いものを採用するというシンプルなルールが基本です。
● 相続開始日(課税時期)の終値
● 相続開始月の毎日の終値の月平均額
● 相続開始月の前月の毎日の終値の月平均額
● 相続開始月の前々月の毎日の終値の月平均額
必要な株価情報は、証券会社の残高証明書や日本取引所グループの月間相場表、株価情報サイトなどで無料で調べることができ、原則的なケースであればご自身での計算も可能です。
一方で、権利落ち・配当落ちが絡むケース、複数の取引所に上場している銘柄、亡くなる直前の売却など、実務では判断に迷う例外的な場面も少なくありません。評価方法を誤ると相続税の過大・過少申告につながり、後日の税務調査で修正を求められるリスクもあります。
当事務所では、上場株式をはじめとする有価証券の相続税評価から、申告書全体の作成まで一貫してサポートしております。「保有銘柄が多く自分で計算しきれない」「権利落ちのタイミングと相続開始日が重なっていて不安」といったお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。
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